STORYSHO Kizaki

#204-4 理由翔は車を走らせていた。

2022.1.05

#204-4 理由翔は車を走らせていた。既に夜の帷が下りた国道4号線をアパートのある草加とは反対方向の上野方面へ。店を後にしても家に帰る気にはなれなかったのだ。 対向車のヘッドライトの光が翔の目に映っては流れていった。 (俺、どこへ行こうとしているんだ) 翔の意識は目的地なく車を走らせているつもりだった。しかし、意識とは別の場所にある何かが、確実に目的を持って翔の体をある所へと運んでいた。そして車は隣町の西新井に入り細い路地を走ると、1軒のアパートの前で停まった。 翔は車から降りると2階の角の部屋を見上げた―灯りが点いている。その灯りをジッと見つめた。懐かしさと、ホロ苦さと、恥かしさが入り混ざった表情で。そして、意を決した顔になって2階への階段を上っていった。 2階の角部屋。表札には「山中」と書かれていた。 「…」 翔は深呼吸を1つして部屋のインターホンを押した。 ―ピンポーン ややあって、ドアはチェーンを掛けられたまま少しだけ開いた。突然の夜の来訪者を警戒するようにドアの隙間から女性の顔が見えた。歳は翔と同じ22、23歳位のその女性は翔の顔を見ると目を見開き、驚きの声をあげた。 「翔!」 「…久しぶり」 ハニカミながら言ったが表情は暗かった。女性はそれを見て、翔の身に何かあったと悟るとチェーンを外し、ドアを開けた。