STORYSHO Kizaki

#002-7 野球トラック運転手としてステップアップ

2021.07.04

#002-7 野球トラック運転手としてステップアップするに合わせて給料も上がり、20歳(ハタチ)の時、木屑を運ぶチップ車と呼ばれる大型トラックを運転する翔の給料は50万円を超えていた。この頃、翔は金銭的にも満たされ、仕事の中に責任とやり甲斐を見出すこともできていた。しかし同時に、何か物足りないもどかしさが―焦りにも似た疼(うず)きが胸の奥に巣食い始めているのを感じていた。 それが何なのかに気付いたのは、チップ車に乗るようになり1年が過ぎた頃だった。その日、翔は荷積みして京葉道路を走っていたところ、無線を通じて男の声が入ってきた。トラック運転手の間では、長距離運転の退屈しのぎや眠気覚ましのために、無線を使って見知らぬ物同士が会話をするという業界特有のコミュニケーションがある。 翔はいつも通り、その会話に付き合っていた。だがその時、ふいに気付いた。自分の生活の中で、直接、顔と顔を向き合わせて会話をすることがいかに少ないかということを。こうして無線を通じて顔も知らない人と話している時間がなんと長いことか。 業界に馴染めば馴染むほど、その度合いは高まり、誰とも顔を合わさず、無線だけの会話で1日が終わることもある。この仕事をずっと続けたら人と知り合う、触れ合う機会はどんどん減っていくだろう。それでいいのか…人と知り合わなければ、世界がどんどん狭くなる…それでいいのか。