STORYSHO Kizaki

#003-3 ホスト「おはようございます。今日から

2021.07.24

#003-3 ホスト「おはようございます。今日から入店した翔君です」 翔を紹介する店長が「輝咲」という苗字を言わなかったのは、当時のホストの世界では源氏名は名前だけというのが一般的だったからだ。翔は偽らざる自分で勝負しようと、源氏名を決める時、本名をそのまま使うことにした。 店長は40代後半で“紳士”という言葉がしっくりくる男性だった。その外見によく似合う低く落ち着いた声で翔の簡単な紹介をすると、翔に視線を送り、うながすように頷いた。翔は立ち上がると深くお辞儀して言った。 「今日からお世話になります翔です。よろしくお願いします」 先輩ホストたちは声を掛けることもなく、皆、無関心といった様子で押し黙っていた。翔は予想外の冷ややかな反応に戸惑ったが、店長はそれがいつものことであるかのように、事務的にミーティングを進めた。 翔のホストクラブデビューとなるこの日は、ホワイトデーということもあり、開店と同時に何組もの女性客が、指名するホストとの甘いひと時を過そうと次々にやって来た。 初めて目の当たりにする夜の世界は、華やかで艶やかだった。汗と埃にまみれて働く職場しか知らなかった翔にとって、それは全くの別世界だった。 (これがホストクラブかぁ。テレビを見ているみたいだな) 翔は初めて見る光景に興奮し、子供のように瞳を輝かせて見入っていた。 「オイ新人! ボケッとすんじゃねぇ! 3番テーブルにヘルプにつけ!」 「ハ、ハイ!」 フロアマネージャーに頭を小突かれて、戦場へ駆り出されて行った。 「は、初めまして。翔です」