STORYSHO Kizaki

#003-4 ホスト愛想の良い方ではない翔だったが

2021.08.16

#003-4 ホスト"愛想の良い方ではない翔だったが、精一杯の愛想笑いを作って挨拶した。そして、指名ホストと女性客が座るソファーからテーブルを挟んで反対側にある“ヘルプ席”と呼ばれるスツールに腰を下ろした。ファンデーションを厚く重ね、目の覚めるような真っ赤な口紅(ルージュ)を塗った40代の女性客はジッと翔を見つめた。すでに酒のせいで虚ろになった目で。「アンタ、今日が初めてなんだってね」「ハ、ハイ…」蚊の鳴くような声で返した。「この仕事の前は何していたの?」「トラックの運転手をしていました。最初は2tトラックで、その次に4t…」女性客は煙草を箱から1本抜き、口に運んだ。翔はなおも喋り続ける。「2tの時は一斗缶を専門に運んでいたんですけど…」 すると女性客が「ちょっとアンタぁ!」翔の話を強い口調で遮った。 「?」何を怒鳴られたか分からず、翔はキョトンとした顔で女性客を見つめた。「バカ野郎! 火だろうが!」指名ホストはいきなり立ち上がり翔を殴りつけた。衝撃が走ったと思った瞬間、翔の体は吹っ飛び床に転がっていた。 「すみません。コイツ、今日が初めてなんで」 詫びながらライターで女性客の煙草に火を点けた。「ありがとう。やっぱり京介クンは気が利くわね。それに引きかえアンタ、全然ダメね。喋りも面白くないし、煙草の火もロクに点けられないなんて。この仕事に向いてないんじゃないの」酒が入り、すっかり酔った様子の女性客は、歯に衣着せぬ勢いで絡む様に翔に文句を言った。「だいたい、そのカッコからして気に入らなかったのよね。サラリーマンじゃあるまいし。もっとホストらしい着こなしができないの。眉も全然手入れされてないし。せっかくのお酒がマズくなるわ」「…」 "