STORYSHO Kizaki

#204-6 理由「どうしたの?

2022.1.10

#204-6 理由「どうしたの? 翔が尋ねてくるなんて珍しいね」 紅茶をいれながら、千春は努めて明るく言った。 「ゴメン…」 「別に責めてるわけじゃないよ。ただ、付き合ってた時ですら、翔の方からウチに来てくれることなんてほとんどなかったからね、どうしたのかなって思って…。凄く元気ないよね」 「…」 翔は肯定する代わりに沈黙した。 「今も…ホストやってるの?」 「…今は店をやっている」 「店って…自分でお店やってるの?」 「ああ…」 「凄いじゃない。じゃあ今、翔はオーナーさんなんだ」 「そういうことになるのか、一応。実感はないけど…」 そう言うと翔はいったん、言葉を切った。そして、日常の流れの中に置いてきた記憶を手繰ると、また言葉を紡いだ。 「千春は、まだ銀行勤めか?」 「うん。窓口は3時で終わりだから、相変わらず5時にはウチに帰れるんだ。イイでしょ」 1年前と変わらない笑顔を向けてくれる千春に、相変わらずの抑揚のない口調だが、翔は少しづつ口数が増えていった。 「そっか…5時は俺が出勤準備を始める時間だな」 「それで朝帰りするの?」 「昼」 「えーっ! よかったぁ、翔と別れといて。そんなんじゃ、昔以上に会える時間がないもんね。こんな人と付き合ったら、きっと死ぬまで会えないよ」 「葬式で会えるよ」 「それって、死んでからじゃない」 「…」 2人、顔を見会わせると、いきなり 「プッ…アッハッハハハ…」 2人同時に笑い出していた。 (ああ…そういえば、昔はこんなことで笑い合ったりしていたんだっけ。懐かしいな…)