STORYSHO Kizaki
#204-7 理由これまで過去を
2022.1.10
#204-7 理由これまで過去を振り返る事などなかった翔は、この時初めて、過ぎ去っていった彼女との時間を懐かしく愛しく思った。そしてその穏やかな気持ちは、頑なに他人には見せまいとしていた翔の弱さ―心の扉の鍵を開けた。 「実はさっきウチの店が火事になったんだ」 「えっ?」 「ケガした人はいなかったけど、店はもう滅茶苦茶だ。周りのお店への賠償責任も出てくるって言われた…」 「でも保険、入ってるんでしょ?」 しかし、その言葉を遮るように翔は首を横に振った。 「入ってないの?」 「知らなかったんだ…そういうの。店を開く時に、誰にも相談とかしなかったから…」 「それじゃ…」 千春はそこで言葉を止めた。本当は「どうやって払うの?」と聞こうとしたが、それが見つからず途方に暮れて自分の元にやって来たのだと分かったから。 そして千春はそれまでの心配そうな表情から一転し、笑顔を作ると翔に言った。 「今日はゆっくりしてってよ。つまり今日は仕事がないってことなんだからさ、この1年分の話、いろいろと聞かせてよ」 「千春…」