STORYSHO Kizaki

#205-2 再起大将は翔の眼をしばらく

2022.1.16

#205-2 再起大将は翔の眼をしばらく見つめた。翔は眼を反らす事なく力強く見つめ返した。その間、わずか数十秒が、翔にはとてつもなく長い時間に感じられた。そして、大将は言った。 「分かった」 返事はそれだけだった。それだけ言うと、大将はもう話すことはないと言わんばかりに席を立ち、店の奥へと行ってしまった。しかし、翔にはそれで大将が全てを許してくれたということが分かった。だから、そのまましばらくの間、大将の消えて行った方に向かって、感謝の気持ちをこめて頭を下げ続けた。 その翌日、大将からの電話を受け、翔は再び鶴寿司の敷居をまたいだ。 「大家とは話をつけといた」 昨日と同じ様にカウンター席に座り大将は言った。 「えっ?」 「今回の損害分は保証金から支払うってことで納得してもらった。契約は継続ってことだ」 「…」 火事が起きた時、駆けつけた大家は、翔に思いつく限り辛辣な言葉をぶつけた。 「まさか、1ヶ月やそこらでこんなことをしてくれるとは思わなかった」 「本気だとか偉そうなこと言っても、所詮はガキの遊びだ」 「こんなガキを少しでも信じたワシがバカだった」