STORYSHO Kizaki

#002-5 野球だが、翔は文句を言うことはなかった。

2021.07.04

#002-5 野球だが、翔は文句を言うことはなかった。他にしたいことがない以上、この仕事をするしかないと思っていた。そして「どうせやるならキッチリした仕事をしなければ」と自分に言い聞かせていた。 そんな生活が半年続いたある日、翔はあることに気付いた。それは自分と同じようにベルトコンベアーに向かっている作業員たちが、自分の両親と変わらない歳の人たちばかりだということと、パートのおばちゃんでもできる仕事だということを。 その瞬間、翔の脳裏に、その歳になった自分が今と同じ場所で同じ様に青いつなぎの作業着を着て働いている姿が浮かび、愕然とした。誰にでもできる仕事を今やらなくてもいいのではないか。そして、自分もあの歳になるまで、こうして毎日を過すのかと思った途端、感じたことのない将来への不安が心の中に広がった。