STORYSHO Kizaki

#003-1 ホスト1996年3月14日

2021.07.24

#003-1 ホスト1996年3月14日 「ネクタイなんて久しぶりだな。富士井電機の入社式以来4年ぶりか」 初出勤となるこの日、翔は久しぶりに袖を通すスーツの感触に適度な緊張感を感じ、気持ちが引き締まった。 「ホストって、どんな髪形にしたらいいんだろ…」 そう呟きながら鏡の前に立つと、耳に触れるくらいまで伸びた髪の毛にヘアーワックスをつけ、無造作に手櫛(てぐし)をいれながら髪型をセットした。出勤の1時間前には準備が完了していたが、手持ち無沙汰で落ち着かなく、結局、時間になるまでに5回もセットし直した。 翔が扉を叩いたホストクラブ「ブルーナイト」は、私鉄東武日光線の沿線にあり、都心へ通う通勤者のベッドタウンとして拓(ひら)けた町だ。ちなみに、翔の生まれ育った草加市も、その東武線上にあった。 店のある竹ノ塚は割に大きな町で、繁華街もそれなりに賑わっていた。キャバクラやホストクラブもかなりの数がある。翔が勤めることになった「ブルーナイト」は、竹ノ塚でも5指に入る老舗のホストクラブだった。赤を基調としたシックな店内には厚手の絨毯が敷かれ、天井からは豪華なシャンデリアが吊るされていた。