STORYSHO Kizaki
#013-3 保証人翔は開店にはまだほど遠い
2021.12.05
#013-3 保証人翔は開店にはまだほど遠い鶴寿司で、大将と2人、カウンター席に座った。大将は翔にはウーロン茶、自分にはビールを出した。 翔は大将にだけは、ありのままを話した。悟志の借金からシャルマンが閉店したこと。そして自分が店を開こうとしたが、保証人を頼める人がいないことまで全て…。 「なるほどな。無鉄砲に突っ走ってみたけど、玉砕しちまったって訳か。俺も一応、このクレインビルの大家だからな。その立場で言ったら、意見は同じだ。保証人なしじゃ、俺も貸さねぇな」 鶴寿司はクレインビルと名付けられた7階建てビルの1階にある。その上の6フロアには、キャバクラを始めとする飲食店が入っていた。クレインとは英語で鶴という意味であり、このビルは大将が1代で築いたものだった。 「そう…ですよね」 大将の言葉に、すぐ近くにあると思ったシャルマンの再起が、実は遠くにあったのだと感じずにはいられなかった。 「でもよ、若いうちは、そういう無鉄砲さが大事なんだよ。最近のヤツは妙におりこうさんで物知り顔が多くてよ。みんな頭でばっかり考えて行動には移せねぇ。失敗を恐れて何もできねぇくせに、能書きたれてカッコばっかりつけたがる。俺はそういうヤツは嫌いでよ」 「でも結局、何もできなきゃ同じじゃないですか…」 「まぁ、それはそうだが…だったら、やってみりゃいいじゃねぇか、その店」 「え!?」 「能書きたれているヤツと翔ちゃんの違いは、翔ちゃんは保証人さえいれば店をやれるって事だろ。だったら、俺がその保証人になってやるよ」 「ええっ?」 「あそこの大家とは長い付き合いだし、俺が保証人になりゃ、『嫌だ』とは言わせねぇよ」 大将は笑って言った。しかし、翔はそれを素直に受けていいかどうか迷った。 「そんな…なんで俺なんかに?」 「なんでかなぁ…俺も保証人なんて生まれて此の方なった事なんかねぇんだけどさ、翔ちゃんにならなってやっても良い様な気がしたんだよな」 「た、たったそれだけの理由で、こんな大事なことを…」 「俺もよ、頭で考えるより先に行動しちまう方だからさ。直感が全てなんだよ。今まで『大丈夫だ』って直感した事で失敗した事はねぇんだぞ」 大将は得意気な表情をしてみせた。その顔に背中を押された翔は、椅子から立ち上がると、これ以上ないくらいの感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げた。 「ありがとうございます」 「ああ…」 ぶっきらぼうだったが、そう言った大将の瞳は優しかった。