STORYSHO Kizaki

#203-1 炎上―1996年7月10日

2021.12.26

#203-1 炎上―1996年7月10日 オープンから約1ヶ月、スタッフの間には歳が近いおかげで生まれた一体感―学生の部活動やクラスメートのような親近感があった。そしてそれは仕事をすることの楽しさにつながっていた。〝みんなでひとつのことを創り上げていく楽しさ〟―例えるなら翔も含めたスタッフ達は皆、学園祭で出し物をしている学生のような心境にあった。 半ば素人が集まってできたジュエルだったが、働いている人間が楽しければ来る客も楽しく感じるもので、気付くとジュエルには平日・週末に関係なく、連日、客が足を運ぶようになっていた。 この日、翔はブルーナイトの頃に通い始め、今では日課となっているボクシングジムにいた。夕方5時にジムに入った翔は、いつも通り夜7時の出勤時間まで汗を流すつもりでいた。 バンバンバン! ボクシング用のサンドバックをリズムよく叩いていると、ブルルルル…携帯電話の着信を告げるバイブレーターが震えた。 「誰だろう。誰か当欠でもするのかな」 翔はサンドバックを叩く手を止めると、畳まれたタオルの上に置かれている携帯電話を取った。その画面にはジュエルの真下にあるキャバクラ「シャングリラ」の番号が映し出されていた。 「シャングリラ…何の用だろ?」