STORYSHO Kizaki

#203-3 炎上 (火事…火事…火事…)

2021.12.26

#203-3 炎上 (火事…火事…火事…) ジャージのまま車に飛び乗り、ジュエルに着くまでの15分の間、翔は現実感の持てないその言葉を心の中で何度も呟いていた。 (店が火事…まさか。シャングリラの店長、えらく慌てていたけど、ボヤかなんかだろ…ウチのスタッフからは連絡ないし。ちょっと焦げたとか、そういうレベルの話だよな…) 動揺する自分をなだめるように、何度も自分にそう言い聞かせた。 (きっと店に行ったら、太田あたりが神妙な顔をして、『ちょっと絨毯を焦がしてしまいました。すいませんでした』とかなんとか言ってくるんだろうな) 最悪の事態は考えず、とにかく楽観的に考えようとした。その頃には、運転する車は店にほど近くまで来ていた。 翔は店の近くに借りている駐車場に車を止めると、駆け出すこともなく、いつもの出勤と同じように歩いて店へと向かった。いや、違う。本当は駆け出したかったが、現実を見る事が怖くて走れなかったのだ。「店が何ともない姿を早く見て安心したい」という気持ちと「もしそうじゃなかったら…」という気持ちが交錯して、翔の足を重くしていた。