STORYSHO Kizaki

#302-3 予兆「これは?」

2022.2.20

#302-3 予兆「これは?」 「実はその店、先月に倒産したんだ。オーナーとは長い付き合いなんだけど、彼は借金返済の足しにしようと、残った在庫を売り払いたいらしいんだ。それで、僕に格安で構わないからどこか売り先がいないかって相談してきた」 「倒産した店の商品を買いたがるところなんてあるんですか?」 「それがあるんだよ。衣料専門店チェーンの『しまだ』は知ってるよね、そことコネクションがあるんで、在庫商品が総額いくらで引き取れるかを聞いてみたんだ。そしたら、こっちが仕入れる金額の倍額で引き取ってくれることになったんだ」 アパレル業界のことは全く分からない翔だったが、目を輝かせながら話す田中の様子から、いかに旨い話かを理解した。 「でも、ひとつだけ問題があるんだ…」 田中がそう言った時、翔には次に来る言葉が予想できた。 「お金…ですか」 「ああ…。これだけの好条件が目の前にありながら、俺にはそれを仕入れる資金がない」 それまでの高揚ぶりから一転、田中はうな垂れるように言った。 「いくらなんですか?」 「仕入れ値で1200万円。でも、それが2400万円で売れるんだ。右から左で1200万の儲け、逃すにはもったいないよな」 と言うと、田中は姿勢を正し改まった表情で言葉を続けた。