STORYSHO Kizaki

#302-4 予兆「輝咲さん、1200万円

2022.2.20

#302-4 予兆「輝咲さん、1200万円を何とか工面してもらえないか。この前の車の時のように売り先はもう決まっているんだ。絶対に損はしない。輝咲さんの取り分として1000万円払うから頼む!」 座ったまま田中は頭を下げた。その光景に周りの客やキャスト達は何事かといった視線を送った。 「た、田中さん。そんな…頭を上げて下さい」 「僕はこの件を何とかしたいんだ。お金の問題だけじゃない。そのオーナーには昔、お世話になったから、その恩を返したい…だから頼む!」 「分かりました。お金は僕の方で何とかしますから、頭を上げて下さい」 そのひと言に田中は再び表情を一転させ、満面の笑みを浮かべた。 「本当? 良かった…ありがとう!」 強気な口調で展望を語っていたと思ったら、次の瞬間には頭を下げて頼み込んでくる。コロコロと変わる田中のペースに、翔は半ば強引にお金の工面を引き受けさせられてしまった。 (なんか調子が狂う人だな…。この前より大きい額だけど松本さん、貸してくれるかな…) 思案する翔の横でシャンパングラスを傾けている田中の目は、それまで翔には見せたことのない狡猾な色を湛え、口元には笑みが浮かんでいた。 そして悩んだ末、翔は再び松本老人から1200万円の借金をした。